通行税とらないで、
一寸白髪頭をこすって、
低い幌馬車見送った。

タラッタ、ラタ、ラッタラー、
…………………………
[#ここで字下げ終わり]
 ワルトンも向き合って踊り出した、二人は仲々調子よく踊った。調子の弾む程余計にアイリスは我慢がならなかった。自分の即興を逆にこすられて、彼女はじっとして居られなかった。精一杯の金切声で叫んだ。
 ――止まれ、あんた達は何故私の言う通り決闘をしないのです。
 踊ることを止めたジョーンはむきになって抗議した。
 ――決闘する理由が無いんだ。
 ――理由? 理由が必要なの、あらそお、一体昔の決闘って、どんな理由でやったのだっけ。
 アイリスは急に行手を塞《ふさ》がれたように意慾が突然押えられて、しょげ返った。アイリスは音なしくなって決闘の理由を尋ねた。そこでワルトンは口を入れた。彼は唾を呑んで自分のしゃべり出すきっかけを待っていたのだ。
 ――公衆の面前で自分の名誉を傷付けた者に対し、それから……ネルソンのように女の奪い合いで……。
 不意におのおのの体内で何か重い塊《かたま》りがどしんと落ちたような気がした。現にその音が耳の中に鳴り渡ったようであ
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