任《ま》かせたかった。アイリスの功利的ずるさが、差し当り二人に決闘の真似事をさせて、自分を彼等から解放させようと目論《もくろん》だ。
――さあ、決闘しなさい。
アイリスの決定的な提議にワルトンは一寸困ってしかめ面をしたが、直ぐにやっと笑って、ジョーンを振り向いて訊いた。
――ジョーン、やるかい、決闘を。
――何を詰らない。フォルク・ダンスでもした方がいいよ。タ、タ、タ、タ、タラッタラー。
口で調子を取りながら、ジョーンは何か鬱積した心中を晴らしたい気持から、両手を腰に置いて、脚を少し折り曲げ、弾みのつく腰付きで、ワルトンの前方へ進んだり、遠ざかったり、左右へ跳び歩るく。彼はやけ[#「やけ」に傍点]のようになって踊り廻りながら唄い出した。
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タラッタ、ラタ、ラッタラー、
マーケットの日に、
私は初めてペッギーを見た。
彼女は乾草の上に腰を下ろして、
低い幌馬車を駆って居た。
タラッタ、ラタ、ラッタラー、
私は歌う、
其の乾草が若草で、
春の花を一杯つけたとて、
盛りの彼女に敵《かな》わぬと。
彼女が馬車に乗ってたら、
関所の因業なおじさんは、
ちっとも
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