う側まで駈けて行った。彼女は二人の男達が近づいても、其処にぼんやり停って足下の芝草を見て居た。が、やがて又唐突に男達の顔を代る代る等分に見並べた。そして探るように言った。
――あんた達、決闘をやって御覧。
彼女は遥《は》る遥《ば》るロンドンの下町から地下鉄やバスに乗って、此の男達に連られて来たのであった。乗換えや色々で小一時間の行程と、絶えず左右から挟まれて感ずる異性の漠然とした刺戟のために、彼女は可なり疲れて居た。露骨なワルトンよりも落ち付いて鷹揚《おうよう》そうに見えるジョーンから寧《むし》ろ彼女は重苦しい圧迫を受けて居た。兎《と》も角《かく》、彼女は疲れた。男達を暫し離し度くなった。然《しか》し男達が全く彼女からすっかり離れてしまっても彼女は淋しくて堪えられまい。彼女は男達を少し離れた彼女の傍に置きたかった。男達の注意を余り彼女に向けないように、而《しか》も、男達が全く彼女に無関心になり切らない程度で――兎に角、アイリスは一息つきたかった。芝草の上に坐って大きな楽な呼吸が五ツ六ツしたかった。それから眼を瞑《つむ》って、草の軟かな香りを嗅ぎながら何か心を整えて呉れる考えに自分を
前へ
次へ
全25ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング