い顔と、白く光って細い指の可愛く素早しっこい小突き方は、妙に邪険で、男達をわあーと後へ二三歩飛び去らせた。男達は息を呑んだ。でもワルトンは、小癪《こしゃく》に触って不満そうに停って居るジョーンより前方へ進み出て、右腕を伸し人差指を剣のように前へ突き出し、左腕を上へ直角に曲げ、決闘の型でアイリスに迫った。
 ――さあ、我れこそはドンキホーテ、いざ一本参らん。
 ワルトンの今までの経験に依ればアイリスは可なり複雑な性格の女に思えた。時折り彼は彼女をどう扱ってよいか解らなかった。今も彼はアイリスが変にいこじで意地悪な雌《めす》に見えた。彼女は、また今のワルトンを非常に出過ぎ者で洒落臭《しゃらくさ》く感じた。
 ――何を失礼な、姫君に向って。
 アイリスは陽の斜光を背に向けて身構えた。
 陽に透けて白髪のように見える淡黄色の髪にぼかされ、彼女の顔は細長く凹んで見える。ワルトンの人差指が、狙《ねら》って来る蛇のようにアイリスの咽喉先きに迫ると、彼女は不意の圧迫に堪えられなくなった。
 ――嫌やよ、気持ちが悪い。ジョーンとやりなさい。
 そう言って、アイリスはくるりと向きを変え、決闘場跡の芝生の向
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