の幹や、疎《まば》らな白樺の陰影に斜めに荒い縞目をつけられて地味に映えて居る緑の芝生を眺めて居た。
ワルトンの言葉に薄笑いを浮べて居たジョーンは、しゃくるような瞥見《べっけん》をワルトンに送った後、小声でアイリスに言った。
――此処はね、昔決闘場だったんだ……。
――まあ、決闘場だったの。
アイリスはジョーンの説明を打ち切らした程とんきょうな叫び声を挙げ、ジョーンの左腕をぐっと下へ引いた。ジョーンは右の人差指で芝生の両端を指しながら、何かを教えこむようにアイリスに言った。
――ね、向うと此方に立ってね、剣を持って互に真中に進み寄ると、突き合い切り合いをやったんだよ、凄《すご》かったんだろうな。
アイリスは殆んど聴いて居ないような早さで聴くと同時に彼女は、急に左右の男達の腕から身を抜いて、決闘場の芝生の上へ飛び込んだ。
二人の男達も、無抵抗に引きずられるようにするするついて走り込んだ。男達が其処に停ち止まったアイリスの傍まで駈けつけた途端に、振り向いたアイリスは、右の人差指を延ばして矢継《やつ》ぎ早《ば》やにワルトンとジョーンの心臓部を目がけて突いた。彼女の変に引きつれた笑
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