悪そうにぐっと引き止めて立止まった。彼女の眼前に差し出されて、行手の半分程も遮蔽《しゃへい》して居るワルトンの顔を、彼女はさもさも邪魔物のように自分の頭を下へ幾分下げて、左手の芝生を覗いた。
 ――あら、此処、何、ゴルフ場じゃ無いんでしょう。
 アイリスは顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》や上眼瞼に青筋のある神経質の小さな顔を怪訝に曇らせる。彼女の顔は晴れても曇っても品位を失わない顔立だ、調って正確な顔だ。彼女はロンドンの大抵の女のように痩せて堅そうな体付きをして居るが、腰の短な細いくびれから臀部《でんぶ》の円く膨れた辺りにスマートな女らしさをしっかりと保って居る。彼女は痩せた体を尚更硬張らせて長方形の一段周辺より下った芝生を見入って居る。
 ――ふふん、これは何だか可笑《おか》しな所だな、羊でも囲って置いた所だろう。
 ワルトンは持前の早合点で言ってのけた。が彼の言葉を言い切るまでに已《すで》に彼の頭の何処かで、彼の此の考察を引き留めるものがあった。でワルトンは不審そうに黙ってアイリスと同じように、晩春の午後の陽射しを受けて淋しく燻《いぶ》し銀《ぎん》色に輝く白樺
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