った。それから二人は時々ジョーンの事を話したり訊いたりして其処等辺を散歩した。近所の町を散歩した。ずっと遠くまで歩き廻った。いくら遠くまで散歩しても二人の話はお終《しま》いにならなかった。ジョーンの事を話題にするのは今では全く面白くなかった。もう話題にのぼらなかった。アイリスを喜ばせ笑わせ、生き生きと輝かせて、その生の燃焼の中にワルトンは自分自身を飛び廻らせたかった。自分自身を一緒にくっつけてしまいたかった。此頃からジョーンはアイリスを訪ねて逢えない日があった。
 ワルトンは過ぎ去った四月二十二日を忘れない。その日は銀行休日《バンクホリデー》であった。ロンドンの恋人達を夢中にさせる日であった。少々野卑ではあったが、耳を叩き破る程の騒音と強烈なウイスキーが市内に居残った人々を無暗《むやみ》と弾ませた。気違いじみさせて、終いにはどうなるか解らぬ程、疲らせた。約束したジョーンは、アイリスを誘いに来た。彼女はワルトンと一緒になって待って居た。三人はぎこちない気持で、町中や公園の喧騒の中を歩き廻った。が、晩になった、ジョーンは帰らねばならなかった。アイリスの町の近くで彼女とワルトンと二人切りにし
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