てジョーンは離れて行かねばならなかった。彼は自分の心配を運命に任せて元気よさそうに帰って行った。ワルトンは本当に幸福であった。彼の思うようにアイリスは喜んで呉れた。彼より余計に彼女は彼を頼って呉れた。もう夜中に近づいて居た。おどけたりよろけたりした二人は一寸疲れを休めに町角の小公園の灌木の間に入って行った。接吻は優しく骨身に滲みたのであった。翌朝ワルトンは、今日からどんな喜びの緊張と心の自由があるだろうかと、胸をわくわくさせて跳ね起きたが、アイリスの出勤前を道に擁して逢った時、すっかりワルトンの期待は外ずれた。アイリスは昨夜の一時的亢奮の冒険を苦々《にがにが》しく思って居た。彼女の性に対する好奇心が、あんなにもたわいなくワルトンに乗ぜられた事が、じっとして居られない程口惜しかった。感情の反動でワルトンと彼女は殆んど口を利かなかった。彼女の内に籠っての無表情と無口はワルトンを狼狽《ろうばい》させ、殆んど彼女に腕力を加え度いほど憤らせた。でも、その後、彼女は気持よく晴れた空気の中で、すがすがしい緑樹の蔭で、時には打ち解けてワルトンを懐かしそうに見えた。夢遊病者のように幽幻に彼女が振舞うのに
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