ルトンのつべこべ[#「つべこべ」に傍点]とアイリスに取り入る態度を見てはジョーンの血はたぎった。ジョーンは上面《うわべ》では大様《おおよう》を装って居た。女に、殊に幼な馴染《なじみ》のアイリスに性慾を感じさせるような身振りや囁《ささ》やきをどうしても彼はすることが出来なかった。彼は自分の手も足も出せない不器用さが口惜しかった。ワルトンに先手を次ぎ次ぎに打たれて勢いジョーンは退嬰的にばかりなった。三人で散歩するにも活動を見物に行くにも、何もかも、ジョーンはまるでワルトンに連れられて行くようであった。其処にアイリスが殆んど居ないのも同然であった。もう以前のアイリスは消失してしまって、今ではワルトンに包まれた混合物のようなアイリスが居た。ジョーンは正真正銘のアイリスが見たかった。不純物を取り除きたかった。不純物を二度と再びくっ付かぬようにしたかった。本当にはっきりそうしたかった。腕で引き裂いて総歯で噛み砕いて、滓《かす》にして吐き出して、それを靴の踵《かかと》で踏みにじって、それから火葬場の炉の中ですっかり焼き尽してしまいたかった。それでもまだ灰や煙がすらすら抜け出てアイリスにくっ付くような
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