町に在る大学からの帰途、アイリスを訪ねた。その都度《つど》二人は見違えるような新生面を以って向い合った。色々の事が談したかった。些細な事まで聴きたかった。彼等は教会小学校へ始めて登校した頃からの二人の間に行われた、たわいも無い我慾の事を想い出した。これから、どうしなければならないかと言うことも一寸は考えた。それよりも二人は現在何処かへ出かけたかった。何かしたかった。何か本当に楽しい事が無いのかと望んだ。そうでなければ命がけの喧嘩でもしたかった。二人は希望を以って逢った。訳の解らぬ不満を以って二人は離れた。また何時逢うかを相談したり約束したりして二人は離れた。お互に対する希求は強くなった。それだけ不満は増した。お互の無情が余計に眼に付いた。無情許りの化身のように見えた。やがて嘆きと怒りが二人の腹の中に夜昼渦巻くようになった。どうする事も出来なかった。ジョーンを一層不幸にさせたのは友達のワルトンとアイリスとの交遊であった。
 アイリスが嘗《かつ》て嫌って居たワルトンが、近頃ではアイリスの話題に屡々《しばしば》のぼった。時にはアイリスがワルトンを誘って二人の間に入れることさえあった。眼前にワ
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