その途端、彼の心に何かの感動が起ろうとする前に、彼は池の面にきっと眼を据え、強い息を肺いっぱいに吸い込んだ。……見よ池は青みどろで濃い水の色。そのまん中に撩乱として白紗《はくしゃ》よりもより膜性の、幾十筋の皺がなよなよと縺《もつ》れつ縺れつゆらめき出た。ゆらめき離れてはまた開く。大きさは両手の拇指《おやゆび》と人差指で大幅に一囲みして形容する白|牡丹《ぼたん》ほどもあろうか。それが一つの金魚であった。その白牡丹のような白紗の鰭には更に菫《すみれ》、丹《に》、藤《ふじ》、薄青等の色斑があり、更に墨色古金色等の斑点も交って万華鏡《まんげきょう》のような絢爛、波瀾を重畳《ちょうじょう》させつつ嬌艶に豪華《ごうか》にまた淑々として上品に内気にあどけなくもゆらぎ拡《ひろ》ごり拡ごりゆらぎ、更にまたゆらぎ拡ごり、どこか無限の遠方からその生を操られるような神秘な動き方をするのであった。復一の胸は張り膨らまって、木の根、岩角にも肉体をこすりつけたいような、現実と非現実の間のよれよれの肉情のショックに堪え切れないほどになった。
「これこそ自分が十余年間苦心|惨憺《さんたん》して造ろうとして造り得なかった
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