彼は七つの金魚池の青い歪《ゆが》みの型を、太古の巨獣《きょじゅう》の足跡のように感じ、ぼんやりとその地上の美しい斑点に見とれていた。陽が映り込んで来て、彼の意識もはっきりして来ると、すぐ眼の前の古池が、今始めて見る古洞《こどう》のように認められて来た。それは彼の出来損じの名魚たちを、売ることも嫌い、逃しもならぬままに、十余年間捨て飼いに飼っておいた古池で、宗十郎夫婦の情で、ときどき餌を与えられていたのであったが、夫婦の死後は誰も顧《かえりみ》るものもなく憐れな魚達は長く池の藻草や青みどろで生き続けていたのであった。この池の出来損いの異様な金魚を見ることは、失敗の痕《あと》を再び見るようなので、復一はほとんどこの古池に近寄らなかった。ときどきは鬱々《うつうつ》として生命を封付けられる恨《うら》みがましい生ものの気配《けは》いが、この半分|古菰《ふるこも》を冠った池の方に立ち燻《くすべ》るように感じたこともあるが、復一はそれを自分の神経衰弱から来る妄念《もうねん》のせいにしていた。
 いま、暴風のために古菰がはぎ去られ差込む朝陽で、彼はまざまざとほとんど幾年ぶりかのその古池の面を見た。
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