金魚撩乱
岡本かの子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)仔魚《しぎょ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|匹《ぴき》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)はか[#「はか」に傍点]
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今日も復一はようやく変色し始めた仔魚《しぎょ》を一|匹《ぴき》二|匹《ひき》と皿《さら》に掬《すく》い上げ、熱心に拡大鏡で眺《なが》めていたが、今年もまた失敗か――今年もまた望み通りの金魚はついに出来そうもない。そう呟《つぶや》いて復一は皿と拡大鏡とを縁側《えんがわ》に抛《ほう》り出し、無表情のまま仰向《あおむ》けにどたりとねた。
縁から見るこの谷窪《たにくぼ》の新緑は今が盛《さか》りだった。木の葉ともいえない華《はな》やかさで、梢《こずえ》は新緑を基調とした紅茶系統からやや紫《むらさき》がかった若葉の五色の染め分けを振《ふ》り捌《さば》いている。それが風に揺《ゆ》らぐと、反射で滑《なめ》らかな崖《がけ》の赤土の表面が金屏風《きんびょうぶ》のように閃《ひらめ》く。五六|丈《じょう》も高い崖の傾斜《けいしゃ》のところどころ
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