池の畔《ほとり》まで落して来た。復一はようやくそこの腐葉土《ふようど》のぬかるみで、危《あやう》く踏み止まった。
 年来理想の新種を得るのにまだまだ幾多の交媒と工夫を重ねなければならない前途|暗澹《あんたん》たる状態であるのに、今またプールの親金魚をこの水で失くすとすれば、十四年の苦心は水の泡《あわ》になって、元も子も失くしてしまう。復一は精も根も一度に尽き果て、洞窟《どうくつ》のように黒く深まる古池の傍にへたへたと身を崩折らせ、しばらく意識を喪失《そうしつ》していた。
 しばらくして復一が意識を恢復《かいふく》して来ると、天地は薔薇色に明け放たれていて、谷窪の万象は生々の気を盆地一ぱいに薫《かお》らしている。輝《かがや》く蒼空をいま漉《す》き出すように頭上の薄膜《はくまく》の雲は見る見る剥《はが》れつつあった。
 何という新鮮で濃情な草樹の息づかいであろう。緑も樺《かば》も橙《だいだい》も黄も、その葉の茂みはおのおのその膨らみの中に強い胸を一つずつ蔵していて、溢れる生命に喘いでいるように見える。しどろもどろの叢《くさむら》は雫の露《つゆ》をぶるぶる振り払いつつ張って来た乳房《ちぶさ》
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