復一は目的違いの金魚が出来ると、こう云った。しかし、ただ云うだけで、何の感傷も持たなかった。ただ、いよいよ生きながら白骨化して行く自分を感じて、これではいけないとたとえ遠くからでも無理にも真佐子を眺めて敵愾心《てきがいしん》やら嫉妬やら、憎《にくし》みやらを絞り出すことによって、意力にバウンドをつけた。
 古池には出来損じの名金魚がかなり溜った。復一が売ることを絶対に嫌うので、宗十郎夫婦は、ぶつぶつ云いながら崖下の古池へ捨てるように餌をやっていた。宗十郎夫婦は苦笑してこの池を金魚の姥捨《うばす》て場だといっていた。
 それからまた失敗の十年の月日が経った。崖の上下に多少の推移があった。鼎造は死んで、養子が崖邸の主人となり、極めて事業を切り縮めて踏襲《とうしゅう》した。主人となった夫は真佐子という美妻があるに拘《かかわ》らず、狆《ちん》の様な小間使に手をつけて、妾《めかけ》同様にしているという噂が伝わった。婿の代になって崖の上からの研究費は断たれたので、復一は全く孤立無援《こりつむえん》の研究家となった。
 宗十郎は死んで一人か二人しか弟子のない荻江節教授の道路口の小門の札も外された。

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