とはおろそかには済まされぬことだ。復一のように厭人症《えんじんしょう》にかかっているものには、生むものが人間に遠ざかった生物であるほど緊密な衝動を受けるのであった。まして、危惧《きぐ》を懐《いだ》いていた異種の金魚と金魚が、復一のエゴイスチックの目的のために、協同して生を取り出してくれるということは、復一にはどんなに感謝しても足りない気がした。
休養のために、雌魚と雄魚とを別々に離した。そして滋養《じよう》を与えるために白身の軽い肴《さかな》を煮《に》ていると、復一は男ながら母性の慈《いつく》しみに痩せた身体もいっぱいに膨《ふく》れる気がするのであった。
しかし、その歳|孵化《ふか》した仔魚は、復一の望んでいたよりも、媚《こ》び過ぎてて下品なものであった。
これを二年続けて失敗した復一は、全然出発点から計画を改めて建て直しにかかった。彼は骨組の親魚からして間違っていたことに気付いた。彼の望む美魚はどうしても童女型の稚純を胴にしてそれに絢爛やら媚色《びしょく》やらを加えねばならなかった。そして、これには原種の蘭鋳より仕立て上げる以外に、その感じの胴を持った金魚はない。復一のこころ
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