こまつ》。なんぼ花ある、梅《うめ》、桃《もも》、桜。一木ざかりの八重一重……。
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 復一にはうまいのかまずいのか判らなかったが、連翹《れんぎょう》の花を距《へだ》てた母屋から聴えるのびやかな皺嗄声《しわがれごえ》を聴くと、執着の流れを覚束なく棹《さお》さす一個の人間がしみじみ憐れに思えた。
 養父はふだん相変らず、駄金魚を牧草のように作っていたが、出来たものは鼎造の商会が買上げてくれるので販売は骨折らずに済んだ。だが
「とても廉《やす》く仕切るので、素人《しろうと》の商売人には敵《かな》わないよ。復一、お前は鼎造に気に入っているのだから、代りにたんまりふんだくれ」
 と宗十郎はこぼしていった。そして多額の研究費を復一の代理になって鼎造から取って来て痛快がっていた。
 復一は親達が何を云っても黙って聞き流しながらせっせとプールの水を更えた。別々に置いてある雄魚と雌魚とをそっといっしょにしてやった。それから湖のもくもくから遥々《はるばる》採って来た柳のひげ根の消毒したものを大事そうに縄《なわ》に挟《はさ》んで沈めた。

 空は濃青に澄《す》み澱んで、小鳥は陽の光を水
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