った。勇気を起して復一は逆襲《ぎゃくしゅう》した。
「お婿《むこ》さん、どうです」
「別に」
彼女はちょっと窓から、母屋の縁外の木の茂《しげ》みを覗って
「いま、いないのよ。バスケットボールが好きで、YMCAへ行って、お夕飯ぎりぎりでなきゃ帰って来ないの、ほほほ」
子供のように夫を見做《みな》しているような彼女の口振りに、夫を愛していないとも受取れない判断を下すことは、復一に取ってとても苦痛だった。進んで子供のことなぞ訊けなかった。
「ご紹介してもあなたには興味のないらしい人よ」
それは本当だと思った。自分の偶像であるこの女を欠き砕《くだ》かない夫ならそれで充分《じゅうぶん》としなければならない。その程度の夫なら、むしろ持っていてくれる方が、自分は安心するかも知れない。
「ときどきものを送って下さって有難う」
「これは湖のそばで出来た陶《とう》ものです」
復一は紙包《かみづつみ》を置いて立ち上った。
「まあ、お気の毒ね。復一さんが帰ってらして私も心強くなりますわよ」
復一は逢《あ》ってみれば平凡な彼女に力抜けを感じた。どうして自分が、あんな女に全生涯までも影響されるのかと、不
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