ねむ》りに入る意識の手前になり先になりして、明暗の界のも一つの仲間の世界に復一を置く。すると、復一の朦朧とした乾板色の意識が向うの宵色なのか、向うの宵色の景色が復一の意識なのか不明瞭《ふめいりょう》となり、不明瞭のままに、澱《よど》み定まって、そこには何でも自由に望みのものが生れそうな力を孕《はら》んだ楽しい気分が充ちて来た。
復一の何ものにも捉《とら》われない心は、夢うつつに考え始めた――希臘《ギリシア》の神話に出て来る半神半人の生《いき》ものなぞというものは、あれは思想だけではない、本当に在るものだ。現在でもこの世に生きているとも云える。現実に住み飽きてしまったり、現実の粗暴《そぼう》野卑《やひ》に愛憎《あいぞう》をつかしたり、あまりに精神の肌質《きめ》のこまかいため、現実から追い捲くられたりした生きものであって、死ぬには、まだ生命力があり過ぎる。さればといって、神や天上の人になるには稚気があって生活に未練を持つ。そういう生きものが、この世界のところどころに悠々と遊んでいるのではあるまいか。真佐子といい撩乱な金魚といい生命の故郷はそういう世界に在って、そして、顔だけ現実の世界に出
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