一の孤独が一層批判の焦点《しょうてん》を絞り縮めて来た。
 復一は半醒《はんせい》半睡《はんすい》の朦朧《もうろう》状態で、仰向けに寝ていた。朦朧とした写真の乾板《かんぱん》色の意識の板面に、真佐子の白い顔が大きく煙る眼だけをつけてぽっかり現れたり、金魚の鰭《ひれ》だけが嬌艶《きょうえん》な黒斑を振り乱して宙に舞ったり、秀江の肉体の一部が嗜味《しみ》をそそる食品のように、なまなましく見えたりした。これ等は互《たが》い違いに執拗《しつこ》く明滅《めいめつ》を繰り返すが、その間にいくつもの意味にならない物の形や、不必要に突き詰《つ》めて行くあだな考えや、ときどきぱっと眼を空に開かせるほど、光るものを心にさしつける恐迫《きょうはく》観念などが忙《いそが》しく去来して、復一の頭をほどよく疲《つか》らして行った。
 いつか復一の身体は左へ横向きにずった。そして傾いたボートの船縁《ふなべり》からすれすれに、蒼冥《そうめい》と暮《く》れた宵色の湖面が覗かれた。宵色の中に当って平沙の渚に、夜になるほど再び捲き起るらしい白浪が、遠近の距離感を外れて、ざーっざーっと鳴る音と共に、復一の醒《さ》めてまた睡《
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