飼われてある美術品の金魚の種類を大体知った。蘭鋳、和蘭《オランダ》獅子頭《ししがしら》はもちろんとして、出目《でめ》蘭鋳、頂点眼《ちょうてんがん》、秋錦、朱文錦《しゅぶんきん》、全蘭子、キャリコ、東錦、――それに十八世紀、ワシントン水産局の池で発生してむこうの学者が苦心の結果、型を固定させたという由緒《ゆいしょ》付の米国生れの金魚、コメット・ゴールドフィッシュさえ備えられてあった。この魚は金魚よりむしろ闘魚《とうぎょ》に似て活溌《かっぱつ》だった。これ等《ら》の豊富な標本魚は、みな復一の保管の下に置かれ、毎日昼前に復一がやる餌を待った。
 水を更《か》えてやると気持よさそうに、日を透けて着色する長い虹《にじ》のような脱糞《だっぷん》をした。
 研究が進んで来ると復一は、試験所の研究室と曲もの細工屋の離《はなれ》の住家とを黙々として往復する以外は、だんだん引籠《ひきこも》り勝ちになった。復一が引籠り勝ちになると湖畔の娘からはかえって誘《さそ》い出しが激しくなった。
 娘は半里ほど湖上を渡って行く、城のある出崎の蔭に浮網《うきあみ》がしじゅう干してある白壁《しらかべ》の蔵を据えた魚漁家の娘
前へ 次へ
全81ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング