。湖畔の学生生活が空気のように身について来ると、習慣的な朝夕の起《お》き臥《ふ》しの間に、しんしんとして、寂しいもの、惜《お》しまれるもの、痛むものが心臓を掴《つか》み絞るのであった。雌花《めばな》だけでついに雄蕋《おしべ》にめぐり合うことなく滅《ほろ》びて行く植物の種類の最後の一花、そんなふうにも真佐子が感ぜられるし、何か大きな力に操られながら、その傀儡《かいらい》であることを知らないで無心で動いている童女のようにも真佐子が感ぜられるし、真佐子を考えるとき、哀《あわ》れさそのものになって、男性としての彼は、じっとしていられない気がした。そして、いかなる術も彼女の中身に現実の人間を詰めかえる術は見出しにくいと思うほど、復一の人生|一般《いっぱん》に対する考えも絶望的なものになって来て、その青寒い虚無感《きょむかん》は彼の熱苦るしい青年の野心の性体を寂しく快く染めて行き、静かな吐息を肺量の底を傾《かたむ》けて吐き出さすのだった。だが、復一はこの神秘性を帯びた恋愛にだんだんプライドを持って来た。
それに関係があるのかないのか判《わか》らないが、復一の金魚に対する考えが全然変って行き、ねろ
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