与えた。同じような意味で彼は市中の酒場の女たちからも普通の客以上の待遇《たいぐう》を受けた。
 しかし、東京を離れて来て、復一が一ばん心で見直したというより、より以上の絆《きずな》を感じて驚いたのは、真佐子であった。
 真佐子の無性格――彼女はただ美しい胡蝶《こちょう》のように咲いて行く取り止めもない女、充《み》ち溢れる魅力はある、しかし、それは単に生理的のものでしかあり得ない。いうことは多少気の利いたこともいうが、機械人間が物言うように発声の構造が云っているのだ。でなければ何とも知れない底気味悪い遠方のものが云っているのだ。そうとしか取れない。多少のいやらしさ、腥《なまぐさ》さもあるべきはずの女としての魂、それが詰め込まれている女の一人として彼女は全面的に現れて来ない。情痴《じょうち》を生れながらに取り落して来た女なのだ。真佐子をそうとばかり思っていたせいか復一は東京を離れるとき、かえってさばさばした気がした。マネキン人形さんにはお訣れするのだ。非人間的な、あの美魔《びま》にはもうおさらばだ。さらば!
 と思ったのは、移転や新入学の物珍らしさに紛《まぎ》れていた一二ケ月ほどだけだった
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