、大概《たいがい》就職の極《きま》っている水産物関係の官衙《かんが》や会社やまたは協会とかの委託生《いたくせい》で、いわば人生も生活も技術家としてコースが定められた人たちなので、朴々《ぼくぼく》としていずれも胆汁質《たんじゅうしつ》の青年に見えた。地方の人が多かった。それに較《くら》べられるためか、復一は際だった駿敏《しゅんびん》で、目端《めはし》の利く青年に見えた。専修科目が家畜魚類の金魚なのと、そういう都会人的の感覚のよさを間違って取って、同学生たちは復一を芸術家だとか、詩人だとか、天才だとか云って別格にあしらった。復一自身に取っては自分に一ばん欠乏もし、また軽蔑《けいべつ》もしている、そういうタイトルを得たことに、妙なちぐはぐな気持がした。
担任の主任教授は、復一を調法にして世間的関係の交渉《こうしょう》には多く彼を差向けた。彼は幾つかのこの湖畔《こはん》の水産に関係ある家に試験所の用事で出入りをしているうち、その家々で二三人の年頃の娘とも知合いになった。都会の空気に憧憬《あこが》れる彼女等はスマートな都会青年の代表のように復一に魅着の眼を向けた。それは極めて実感的な刺戟を彼に
前へ
次へ
全81ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング