等しい努力を始めて陶冶《とうや》に陶冶を重ね、八ケ年の努力の後、ようやく目的のものを得られたという。あの名魚「秋錦《しゅうきん》」の誕生《たんじょう》は着手の渾沌《こんとん》とした初期の時代に属していた。
 素人《しろうと》の熱心な飼育家も多く輩出《はいしゅつ》した。育てた美魚を競って品評会や、美魚の番附《ばんづけ》を作ったりした。
 その設備の費用や、交際や、仲に立って狡計《こうけい》を弄《ろう》する金魚ブローカーなどもあって、金魚のため――わずか飼魚の金魚のために家産を破り、流難|荒亡《こうぼう》するみじめな愛魚家が少からずあった。この愛魚家は当時において、ほとんど狂想《きょうそう》にも等しい、金魚の総《あら》ゆる種類の長所を選《よ》り蒐《あつ》めた理想の新魚を創成しようと、大掛りな設備で取りかかった。
 和金の清洒《せいしゃ》な顔付きと背肉の盛り上りを持ち胸と腹は琉金の豊饒《ほうじょう》の感じを保っている。
 鰭《ひれ》は神女の裳《も》のように胴《どう》を包んでたゆたい、体色は塗《ぬ》り立てのような鮮《あざや》かな五彩《ごさい》を粧《よそお》い、別《わ》けて必要なのは西班牙《スペ
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