イン》の舞妓《まいこ》のボエールのような斑黒点《はんこくてん》がコケティッシュな間隔《かんかく》で振り撒かれなければならなかった。
超現実に美しく魅惑的《みわくてき》な金魚は、G氏が頭の中に描《えが》くところの夢《ゆめ》の魚ではなかった。交媒を重ねるにつれ、だんだん現実性を備えて来た。しかし、そのうちG氏の頭の方が早くも夢幻化《むげんか》して行った。彼は財力も尽《つ》きるといっしょに白痴《はくち》のようになって行衛《ゆくえ》知れずになった。「赫耶姫《かぐやひめ》!」G氏は創造する金魚につけるはずのこの名を呼びながら、乞食《こじき》のような服装《ふくそう》をして蒼惶《そうこう》として去った。半創成の畸形《きけい》な金魚と逸話《いつわ》だけが飼育家仲間に遺った。
「Gさんという人がもし気違いみたいにならないで、しっかりした頭でどこまでも科学的な研究でそういう理想の金魚をつくり出したのならまるで英雄《えいゆう》のように勇気のある偉《えら》い仕事をした方だと想《おも》うわ」
そして絵だの彫刻《ちょうこく》だの建築だのと違って、とにかく、生きものという生命を材料にして、恍惚《こうこつ》とした
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