した砲丸《ほうがん》のように残り西瓜《すいか》が青黒く積まれ、飾窓《かざりまど》の中には出初めの梨《なし》や葡萄《ぶどう》が得意の席を占めている。肥《ふと》った女の子が床几《しょうぎ》で絵本を見ていた。騒《さわ》がしくも寂《さび》しくもない小ぢんまりした道筋であった。
真佐子と復一は円タクに脅《おびや》かされることの少い町の真中を臆《おく》するところもなく悠々《ゆうゆう》と肩を並べて歩いて行った。復一が真佐子とこんなに傍《そば》へ寄り合うのは六七年振りだった。初めのうちはこんなにも大人に育って女性の漿液《しょうえき》の溢《あふ》れるような女になって、ともすれば身体の縒《よじ》り方一つにも復一は性の独立感を翻弄《ほんろう》されそうな怖《おそ》れを感じて皮膚《ひふ》の感覚をかたく胄《よろ》って用心してかからねばならなかった。そのうち復一の内部から融《と》かすものがあって、おやと思ったときはいつか復一は自分から皮膚感覚の囲みを解いていて、真佐子の雰囲気《ふんいき》の圏内《けんない》へ漂《ただよ》い寄るのを楽しむようになっていた。すると店の灯も、町の人通りも香水《こうすい》の湯気を通して見る
前へ
次へ
全81ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング