のとき、真佐子の周囲には、鼎造のいわゆるよその雄で鼎造から好意を受けている青年が三人は確《たしか》にいて、金|釦《ボタン》の制服で出入りするのが、復一の眼の邪魔《じゃま》になった。復一の観察するところによると、真佐子は美事《みごと》な一視《いっし》同仁《どうじん》の態度で三人の青年に交際していた。鼎造が元来苦労人で、給費のことなど権利と思わず、青年を単に話相手として取扱《とりあつか》うのと、友田、針谷、横地というその三人の青年は、共通に卑屈な性質が無いところを第一条件として選ばれたとでもいうように、共通な平気さがあって、学費を仰《あお》ぐ恩家のお嬢さんをも、テニスのラケットで無雑作に叩《たた》いたり、真佐子、真佐子と年少の女並に呼び付けていた。一ぴきの雌に対する三びきの雄の候補者であることを自他の意識から完全にカムフラージュしていた。それが真佐子にとって一層、男たちを一視同仁に待遇《たいぐう》するのに都合《つごう》がよかったのかも知れない。
崖邸の若い男女がそういう滑らかで快濶《かいかつ》な交際社会を展開しているのを見るにつけ、復一は自分の性質を顧《かえり》みて、遺憾《いかん》とは重
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