り返して2字下げ]
――連れていらつしやい、僕の家でお會ひします。さよなら。
[#ここで字下げ終わり]
 詩人はぽくんと一つ叩頭をして、逃げ出す氣持ちで坂を降りかけたが、何だか物足りないものを殘した氣がしたので、思はず振り向いた。
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――お母さん、そのお孃さんはおいくつです。
[#ここで字下げ終わり]
 母親は、こゝに至つて穴にも入りたく、身の置きどころもない樣子をして、手をむやみに磨り合はせてゐたが、顏はぐつと、斜にうつ向けたまゝ、答へたくないものを答へる調子でいつた。
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――あの、それが、九つなのでございまして……。
[#ここで字下げ終わり]
 これを聞くと西原氏は、おう! と虎のやうに叫んで、坂下目がけて驅け出した。口惜しいやうな、悲しいやうな、剽きんなやうな、何とも名状しがたい氣持ちがあとから押すやうで、西原氏は、毬のやうな身體のはずみを、坂から三四丁先きの我家まで一氣に飛ばした。そして家に有合せた酒をむやみに呑んで、誰にとも知れない恥かしいわく/\した氣持ちで、呑んで呑み拔いた酒に醉ひつぶ
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