れて仕舞つた。
 あくる日、西原氏は母親に連れて來られた少女に書齋で會つた。聞いた歳よりはずつと大きく見える少女で、富家の子で榮養も好いのであらうが狂女の病的に發達しませ[#「ませ」に傍点]た體躯の工合ひが十四、五歳位にも見える。明治初期の美人晝に見るやうな瓜實顏に目鼻立ちが派手についてゐて、凄い美人になりさうな少女だつた。一寸見ると、何處といつてきちがひ[#「きちがひ」に傍点]じみた處も無かつたが、よく見ると、尖つた顎の削げ方と、額が押し竦められたやうに迫つて、それに一文字に濃い兩眉がひとに不安の感じを與へる。
 少女は一寸伸び上り、おとなしく西原氏と眞向きの椅子に腰をかけると、眼ばたきもせず、しげしげと西原氏の顏を見惚れるのだつた。
 西原氏はまた醉つたあくる日の朝の西原氏なので、昨夜のそわそわした氣持ちも拔けてぽかんとした中に嚴肅なものに對する一種の憧憬れを持つてゐるやうな氣分であつた。それで始めは、この狂少女に對して、たゞ憐れみが先に立ちそれほど見度い顏ならたくさん見せてあげようといつた具合ひに、青年顏と少女顏と壯年顏に佛顏が交つた西原氏のこの日本にあまりたぐひない――恰度西原
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