附に小銭[#「小銭」に傍点]を入れるやうに人達は無雑作だ。
ハイドパークの青芝を踏まへて六つの演壇が出来てゐる。そこで世界経綸の抱負と無産階級の意義と露西亜への好意《グッドウヰル》と、マクドナルドの打倒――等々がアクセント許りに煮詰められた用語で拍手の唸りを長閑に反応させてゐる。だが、この広い公園の青芝に一万の人間はただの片隅だ。なほあり余る空地には犬と遊ぶ老人、子供を連れた乳母女中、逢曳《ランデブウ》の男女等が、干潮の潟の蟹の数ほど夕陽の下に林の遠景まで続いてゐる。
突然、だが静かにメーデー行進団の一角に学校風の若いメロデーで国歌が唱はれ出した。
何だ。何だ。と附近のコンミュニストが伸び上る。
学生達が、国粋主義《ショウビズム》の示威運動《デモンストレーション》にやつて来たのだ。直ぐ学生達は掴まつた。殴られた。(然し大したことはない)。殴ぐつた者を警官が連れ出す。学生達は義務を済した後の無表情な顔で去る。
学生達の数が、十一人でもなく、十三人でもなく、十二人といふ区切りの好さを示す習慣的の数に頭をそろへて来たところに英国を見る。
この出来事以外一人の検束者も無い。平和に英
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