国のメーデーは終つた。
 饑餓行進は数隊に分れ、その夜の宿所の有無を問はれ、無いものは各所の労働者宿泊所《ウワーカース・ホテル》に引取られた。
 彼等の晩餐の献立。パン、チーズ、チョコレート。
 だが他の一般の労働者はこの日をどう考へてゐるだらうか。私はハイドパークの真向ひ大理石門《マーブルアーチ》地下鉄ステーションへ終電車近く駈けつけた。其処のプラットホームで電流の止まるのを待つて作業を始めようと煙草を喫してゐる一団の線路工に訊ねた。一人は答へる。
「ありや、外国人のやることですよ。」
 一人は答へる。
「わし等の中から政治家を出してますからわし等のよくなる方法はそいつ等が業務《ビジネス》として考へてくれてゐる筈ですよ。」
 失業手当、一週十八志を法によつて約束されてゐる人々の答へである。
 一人はトラックによぢ下りて線路に軌条蹄鉄《メタルシューズ》を嵌め、それに繋がる小箱の外側に取り付けた十二の電球が一せいに燃えることによつて線路の電汁《ジュース》はまた多汁《ジューシー》であることを検査してゐた。その一人は電光に鋭く明暗の二面に対立させられた顔をこつちへ振り向けて言つた。
「日本の
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