びウヱールズから来た血色の好い饑餓行進《ハンガーマーチ》もそれが習慣であるといふ意味を通じて、英国人の頑心を漸次消解させ逐年長閑さを増すロンドン・メーデー風景となつたのだ。
陽気が好いといふことも行列を祝祭気分にする。陰気なストーブの前から逃れ戸外の霧から救はれた英本国六千万の人民はこの時はうはい[#「はうはい」に傍点]と一時に咲き寄せる春夏を併せた諸草木の花、就中メーフラワーの紅白の色彩の爆発に逢つて冬中縮めてゐた感覚の息使ひをにはかに忙しく開始する。
「何と好い陽気ぢやないか。」
思はず手を差し伸べ合つてコンミュニストとトレードユニオニストとが握手する。
ハイド・パークの青芝の広場に幾筋もの汗ばんだ行進隊が吸ひ寄せられて行く。
最貧民街|東端倫敦《イーストロンドン》からの一隊は手押椅子にのつた足無しのリーダーに率ゐられた。雨上りのやうに明朗なテームズ河岸の太陽はいくらかの殺気を帯びたこの一隊に睨み上げられ少しをびえて肩をすくめる。
有色人種特有の嘆きと浮れと決意のメロデーが運動筋を不思議に飜弄する(殖民地のお化)の曲の波に乗つてダーポーシュ帽の赤い房が揺れる。印度自由国聯
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