られる危険がある。発生の早い英国のメーデーは既に今日歴史を帯ばされて年中行事的に図案化した。無産思想を通じての有色人種と白人との国際的提携を象徴しようとして赤髪の美婦人は灰面の埃及人と腕組みして行く。だがそれを褒める倫敦人に彼等の意味を殖民地博覧会の門冠彫刻以上に汲取らし得るかは疑問だ。
 それほどこの行列は内容を脱却した英国人通弊の趣向偏重に陥つて居る。儀礼的の形式主義《フォーマリズム》に力の角々を嘗め丸められてゐる。すべてこの国では、妥協が貫徹への最短距離なのだ。英国気質の通則以上に表現を露出することは更にそれに打ち勝つ力を弱めることなのだ。自ら進んで伝統の上に位置を占めることがむしろ既存伝統の棄却を完からしめることになるのだ。愛蘭独立はその問題が英議会に伝統化された時に解決の端緒が開かれた。
 印度は? 自尊心に対して都合よく出来てゐる英国人はこの問題も大英自身の伝統的問題の成熟としてその解決に心を傾けて来たのだと云つてゐる。英貨のボイコットに周章て来たとは決して言はない。故にリボンで飾つて押し樹てて歩く露西亜文学の旗も、スコットランド、ランカシヤ、ノーサムバア、ダルハム、中部及
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