、そんなところで走ってるのをね」
「まあ、あんたまで変に好奇心を持ってしまって。でも万一のことでもあったらどうします」
「そこだよ、場合によったら弟の準二を連れて行かせたら」
「そりゃ準二が可哀そうですわ」
「兎も角、明日月夜だったら道子の様子を見に行く」
「呆れた方ね、そいじゃ私も一緒に行きますわ」
「お前もか」
 二人は真剣な顔をつき合せて言い合っていたが、急に可笑しくなって、ははははははと笑い出してしまった。二人は明日の月夜が待たれた。

 道子には友達からの手紙は手渡されなかったし、両親の相談なぞ知るよしもなかった。ただいつも晩飯前に帰らない父親が今日は早目に帰って来て自分等の食卓に加わったのが気になった。今晩お湯に行きたいなぞといえば母親が一緒に行くと言うかも知れぬ。弱った。今日は午前中に雨が上って、月もやがて出るであろう。この好夜、一晩休んで肉体が待ち兼ねたようにうずいているのに。段々遅くなって来ると道子はいらいらして来て遂々《とうとう》母親に言った。
「お湯へやって下さい。頭が痛いんですから」
 母親は別に気にも止めない振りで答えた。
「いいとも、ゆっくり行ってらっしゃい
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