すからね。あんまり変ですから今日は私昼間連れて行ってみました」
 母親は茶の間で日記を書き込んでいた道子の父親に相談しかけた。
「そしたら」
 父親も不審そうな顔を上げて訊いた。
「随分長くいたつもりでしたが四十分しかかかりませんもの」
「そりゃお湯のほかに何処かへ廻るんじゃないかい」
「ですからゆうべは陸郎に後をつけさせたんですよ。そしたらお湯に入ったというんですがねえ、その陸郎が当てになりませんのよ。様子を見に行ったついでに、友達の家へ寄って十二時近くまで遊んで来るのですから」
「ふーん」
 父親はじっと考え込んでしまった。
 雨のために響きの悪い玄関のベルがちりと鳴って止むと、受信箱の中に手紙が落された音がした。母親は早速立って行って手紙を持って来たが
「道子宛ての手紙だけですよ。お友達からですがねえ、この頃の道子の様子では手紙まで気になります。これを一つ中を調べて見ましょうか」
「そうだね、上手《じょうず》に開けられたらね」
 父親も賛成の顔付きだった。母親は長火鉢にかかった鉄瓶《てつびん》の湯気の上に封じ目をかざした。
「すっかり濡れてしまいましたけれど、どうやら開きました」
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