が気になるの。眠る前に行く方がいいけれど、それじゃ明日は昼間行きましょう」
 道子は一日ぐらいは我慢しようと諦めた。それが丁度《ちょうど》翌日は雨降りになった。道子は降り続く雨を眺めて――この天気、天祐《てんゆう》っていうもんかしら…………少くとも私の悲観を慰めて呉れたんだから…………そう思うと何だか可笑《おか》しくなって独りくすくす笑った。
 お昼過ぎに母親と傘をさして済した顔でお湯に行った。
「そんなに長くお湯につかってるんじゃありませんよ」
 母親が呆《あき》れて叱ったけれど、道子は自分の長湯を信用させるために顔を真赤にしてまで堪えて、長くお湯につかっていた。
 やがて洗《なが》し場《ば》に出て洗い桶《おけ》を持って来るときは、お湯に逆上《のぼ》せてふらふらしたが、額を冷水で冷したり、もじもじしているうちに癒《なお》った。
「いい加減に出ませんか」
 母親は道子のそばへ寄って来て小声で急《せ》き立てるので、やっと身体を拭いて着物を着たが、家へ帰るとまた可笑しくなって奥座敷へ行って独りくすくす笑った。
「道子はこの頃変ですよ。毎晩お湯に行きたがって、行ったが最後一時間半もかかるんで
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