子は黙って中の間へ去った。
道子はその翌晩から出来るだけ素早くランニングを済まし、お湯屋に駆けつけて汗もざっと流しただけで帰ることにした。だが母親は娘の長湯を気にしていた。ある晩、道子がお湯に出かけた直後
「陸郎さん、お前、直ぐ道子の後をつけてみて呉れない。それから出来たら待ってて帰るところもね」
と母親は頼んだ。陸郎は妹の後をつけるということが親し過ぎるだけに妙に照れくさかった。「こんな寒い晩にかい」彼は別な言葉で言い現しながら、母親のせき立てるのもかまわず、ゆっくりマントを着て帽子をかぶって出て行った。陸郎はなかなか帰って来なかった。母親はじりじりして待っていた。そのうちに道子が帰って来てしまった。
「また例の通り長湯ですね。そんなに叮嚀《ていねい》に洗うなら一日置きだってもいいでしょう」
「でもお湯に行くと足がほてって、よく眠れますもの」
兎《と》も角《かく》、眠れることは事実だったので、道子は真剣になって言えた。母親は
「明日は日曜でお父様も家においでですから、昼間私と一緒に行きなさい」
と言った。道子は何て親というものはうるさいものだろうと弱って
「なぜそう私の長湯
前へ
次へ
全12ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング