入れしながら、面倒臭く思つて伸びをしたり、または芸術といふ不思議な幻術が牽《ひ》き入れる物憎い恍惚《こうこつ》に浸《ひた》つたりしてゐると兄はおづ/\入つて来る。
 彼はかの女の傍に立膝《たてひざ》して坐《すわ》ると、いくらか手入れを手伝ひながら、かの女の気配を計つた。かの女の丸い顔をいぢらしさうに見た。
「うちは、これでね、思つたほど豊かぢやないんですよ。何しろ父はあゝいふ風でせう。何でも見付け次第買つちまつて、とき/″\月末の生活費の払ひの現金にも困ることがあるんです」
 かの女は興味索然としながら話に釣り込まれた。
「あなた方ご兄弟は将来どうするお積り」
「父が生きてゐるうちは今の財産を使つちまつても、父の恩給で米代ぐらゐはありますが、父が死んだらこんな道具類でもぽつ/\売つて喰つて行くより手はありません。それにしても贋物《にせもの》が多くて」
「持参金附きのお嫁さんでもお貰《もら》ひになつたらいかゞ。ご兄弟とも美男子だしお家柄はよし」
 かの女は揶揄《からか》つた。鞆之助は真《ま》に受けた。
「だめですよ。第一僕等に学歴はなし、それにかう見えて、僕は女に対してうんと贅沢《ぜいた
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