く》な好みを持つてゐるんです」
「弟さんは」
「あれは父と同じに女嫌ひらしいです」
さうかと思ふとまたの日は急に朗らかで、いそ/\して来て、どこから探し出して来たか、古風な猥《みだ》らな絵巻物をかの女にそつと拡げかけるやうなこともあつた。かの女は極力平静を装つて、彼の顔を正視した。
「それどこが面白いのでございます」
すると、彼は照れて、
「僕にはものを考へないといふモツトー以外には生きる方法はないんです。単に刹那《せつな》々々の刺戟《しげき》のほかには……」
と負け惜しみのやうなことを云ひながら、手持ち不沙汰《ぶさた》にそれを巻き納めて部屋を出て行くのだつた。
父のYは旧幕の権臣の家の後嗣《こうし》者であつた。旧藩閥の明治の功傑たちは、新政府に従順だつた幕府方の旧権臣の家門を犒《ねぎら》ふ意味から、その後嗣者を官吏として取り立てた。Yは相当なところまで出世した。しかし、Yの持つて生れた度外れの気位と我執《がしゅう》の性質から、たうとう長上《ちょうじょう》と衝突して途中で辞めて仕舞《しま》つた。遺産のあるまゝに生来の蒐集癖《しゅうしゅうへき》に耽《ふけ》つて、まだ壮年をちよつ
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