過去世
岡本かの子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)洲《す》とは
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)青|蘆《あし》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)さとり[#「さとり」に傍点]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)だん/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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池は雨中の夕陽の加減で、水銀のやうに縁だけ盛り上つて光つた。池の胴を挟んでゐる杉木立と青|蘆《あし》の洲《す》とは、両脇から錆《さ》び込む腐蝕《ふしょく》のやうに黝《くろず》んで来た。
窓外のかういふ風景を背景にして、室内の食卓の世話をしてゐる女主人の姿は妖《あや》しく美しかつた。格幅《かっぷく》のいゝ身体に豊かに着こなした明石《あかし》の着物、面高《おもだか》で眼の大きい智的な顔も一色に紫がゝつた栗《くり》色に見えた。古墳の中の空気をゼリーで凝《こご》らして身につけてゐるやうだつた。室内でたつた一人の客の私は、もう灯《ひ》をともしてもいゝ時分なのを、さうしないのは、今宵私を招いた趣旨の蛍《ほたる》
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