つたことはないといふのであつた。それから今までやつた美術品にしても工芸品にしても、一流の定評のあるものばかりで、多分に冒険性を含んだ野心家の「試み」をやられては、折角築き上げて来た芸館の一流品展観所としての貫禄を少からず損ずると、支配人が急に主張し出したといふことも仲介者は伝へた。
講習所五周年記念の大会とはいへ、実は新華道界に於ける桂子のデビユーにも等しいものであつた。普通に使ふアマリヽスとか、チユーリツプ、カーネーシヨン、ダリヤといふやうな洋花以外の、まだ滅多に使つた例しのない奇矯な南洋の花や珍しい寒帯の花、枯れた草木の枝葉などを独創的に使ひ慣らして、華道の伝統感覚の模倣を破つた新興美術的手法の効果を示さうとした。その自信と成績を、桂子が世の中に問うてみる最初の企てなのである。
どちらからいつても、桂子はこのまゝ引込んで仕舞ふわけにはゆかない意気に燃え上つて仕舞つた。だが結局Q――芸館借入れは不調に終つた。それに対する悩みや華会中止の不面目やが身に喰ひ入り、しんに疲れが浸みたのか、桂子はこの頃珍しく昼寝をするやうになつた。
いつの間にやら花も散つて、自分の焦る心より先に季節が
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