花は勁し
岡本かの子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)少時《しばらく》の文人たち

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)祥瑞|模《うつ》しの皿に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)けはひ[#「けはひ」に傍点]をうけて、

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ぽろ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

 青みどろを溜めた大硝子箱の澱んだ水が、鉛色に曇つて来た。いままで絢爛に泳いでゐた二つのキヤリコの金魚が、気圧の重さのけはひ[#「けはひ」に傍点]をうけて、並んで沈むと、態と揃へたやうに二つの顔をこちらへ向けた。うしろは青みどろの混沌に暈けて二ひきとも前胴の半分しか見えない。箱のそとには黄色い琥珀の粒の眼をつけた縞馬の置物が、水粒が透けて汗をかいたやうな硝子板に鼻を擦りつけてゐる。
 箱の蓋の上に置いてある鉢植のうす紅梅がぽろ/\散つて、逞しい蕊が小枝に針を束ねたやうに目立つ。
 新興活花の師三保谷桂子は、弟子の夫人や令嬢たちが帰つたあとで、材料の残りの枝を集めて、自分
次へ
全38ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング