だけ慰みの活花をずんどう[#「ずんどう」に傍点]に挿して、少時《しばらく》眺め入つてゐたが、俄に変つて来た空の模様を硝子戸越しに注意しながら、少しの天候の変化からもぢきに影響される金魚の敏感な様相を観まもつた。
空の模様はます/\険悪になり、しぶき始めた雨と一緒に光り出した稲妻の尖端が、窓硝子を透して座敷の中の炭炉にさした。
「金魚、縞馬、花、稲妻――まるで幻想詩派《サンボリスト》の文人たちの悦びさうなシーンだね」
落ちついて水を持つて来た姪のせん子に、聞かせるといふほどの意志もなく桂子はいつた。
それから桂子は、桂子がフランスを発つて来る間際まで、世紀末生残りの詩人が、まだ飽きずにこんな感じの詩を作つてゐたことを、ちよつとの間、憶ひ出してゐた。
未完成のまゝ花器の根元を持つてそつと桂子が押しやつたずんどう[#「ずんどう」に傍点]の花活《はないけ》へ、水を差しながらせん子がいつた。
「先生けふは三十日――あしたは晦日――今夜でも小布施さんにお金を持つてつてあげないぢや」
小布施は桂子の遠い親戚の息子で、もと桂子が画を習つてゐた時の同門でもあつた。不遇で病弱で、長く桂子に物質的
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