ゝなるとたとへ親切に慰められるのさへ好まなかつた。桂子などには反語で皮肉な応酬をするやうに、いつからか癖のやうになつて来た。
 桂子はうそ寒く両袖を掻き出した。そして庭を見た。庭は先日までの花壇を取り除けて仕舞つて、俄苔を貼つた平地のところ/″\に石と寒竹だけが配置されてあつた。半月程稽古に忙しくて、桂子は来られなかつた代りに、せん子を時々見舞はしたのだが、かの女は庭に就いて何の報告もしなかつた。桂子は気がついて、
「いつ庭をかへたの。せん子は何とも云ひませんでしたよ」
「十日ばかり前に。どうせ僕も長くないと判つたから、植木屋を呼んで三日ばかりで急いで慥へて貰つたのさ。この部屋とこの庭は、あなたより他誰も入れたくない。死ぬまで僕一人で満喫する積りだ」
 夕陽が隣の瓦屋根の角と後塀の上を掠つて庭に落ちる。竹も石も片側茜色になつて、反対側に影をひいた。風が来て竹が戦いだ。
「新植の竹でも一人前に葉擦れの音をさせるから妙さ。僕は夜一人でこれを聞いてゐると、十七八年間馬鹿あがきの疲労が一時に捌かれるやうな気がする。もつとも、その下からちよいとした感傷の古傷が顔を出さないこともないがね。まあ、た
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