。忠実なる主婦なり妻なりになつて――」
 桂子はそれを否定しようとしたが、小布施は抑へた。
「素質からいつても君はさういふ女だ」
 桂子が言葉を返しやうもない必死の独断が小布施の語気にあつた。殆ど病的な独断の強ひ方だ。桂子は何故小布施がこんな独断をして、自ら安心を得ようとしてゐるかと不思議に思つた。が、やがてだん/\それが判つて来たやうに思はれ出した。つまり気ばかり立つて体力の萎靡した男性にとつて、個性の確立した女性は負担を感ずる――で強ひてそのものゝ素質を男子の隷属物的なものと観て、自ら心の均衡を得ようとする、その本能に小布施も今や支配され出したのではあるまいか。それならその事の当否よりも、寧ろ小布施の体の容態を先に気遣はなくてはならない。
「それはそれとして、あなたの容態はどうなの今日は」
「うむ、今度は腹の方へ来たね。目出度いことだ」
 小布施が命に係はることさへわざと軽薄ないひ廻し方をするので、桂子はぐつと気持が胸へつかへたが、長患ひする者の自棄的な反語であるのを知ると、むしろ不憫に思へた。
「………」
 桂子は黙り込んで仕舞つた。小布施は身についた病み患ひに飽きて、病気のこと
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