にこういうことを云ったのも想い出された。
私の肉体は盛り出した暑さに茹《ゆだ》るにつれ、心はひたすら、あのうねる樹幹の鬱蒼《うっそう》の下に粗い歯朶《しだ》の清涼な葉が針立っている幻影に浸り入っていた。
そのとき娘が「あらっ!」と云って、椀を下に置いた。そして、「まあ、木下さんが」と云って眼を瞠《みは》って膝《ひざ》を立てた。
小座敷から斜に距《へだ》てて、木柵の内側の床を四角に切り抜いて、そこにも小さな生洲がある。遊客の慰みに釣りをすることも出来るようになっている。
いま、その釣堀から離れて、家屋の方へ近寄って来る、釣竿を手にした若い逞《たく》ましい男が、娘の瞳《ひとみ》の対象になっている。白いノーネクタイのシャツを着て、パナマ帽を冠ったその男も気がついたらしく、そのがっしりした顔にやや苦み走った微笑を泛《うか》べながら、寛《ゆ》るやかに足を運んで来た。男は座敷の椽《えん》で靴を脱いだ。
「これはこれは、船が早く着いたのかい」
社長もびっくりして少し乗出して云った。
「けさ方早く着いちゃってね。早速、ホテルと君の事務所へ電話をかけてみたが、出ているというので、退屈凌《たいく
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