河明り
岡本かの子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)満《み》ち干《ひ》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)本郷|駒込台《こまごめだい》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)酸※[#「やまいだれ+発」、742−下−21]《さんぱい》
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 私が、いま書き続けている物語の中の主要人物の娘の性格に、何か物足りないものがあるので、これはいっそのこと環境を移して、雰囲気でも変えたらと思いつくと、大川の満《み》ち干《ひ》の潮がひたひたと窓近く感じられる河沿いの家を、私の心は頻《しき》りに望んで来るのであった。自分から快適の予想をして行くような場所なら、却《かえ》ってそこで惰《なま》けて仕舞いそうな危険は充分ある。しかし、私はこの望みに従うより仕方がなかった。
 人間に交っていると、うつらうつらまだ立ち初めもせぬ野山の霞《かすみ》を想《おも》い、山河に引き添っているとき、激しくありとしもない人が想われる。
 この妙な私の性分に従えば、心の一隅
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