った。
 私も、「こういう本当の自然と、それを切り拓《ひら》いて行く人間の仕事に就《つ》いて、漸《ようや》く眼が開きかかって来たのに、お訣れするのは、まったく惜しい気が致します」といった。
 娘は俯向《うつむ》いて、型のようにちょっと無名指《くすりゆび》の背の節で眼を押えた。その仕草が、日本女性のこういう場合にとる普通の型のように見え乍《なが》ら私はやはりこの遠方の異境にまで男を尋ねて来た娘が何かと感傷的になっている証拠にも見た。
 私たちはジョホール河のベンゲラン岬から、馬来人《マレイじん》が舵※[#「蚌のつくり」、第3水準1−14−6]《かじ》を執り、乗客も土人ばかりのあやしいまで老い朽ちた発動機船に乗った。
「腰かけたまわりには、さっき上げといた蚤取粉《のみとりこ》を撒《ま》くんですよ。そうしないと虫に食われますよ」見送りの事務員の労《いたわ》った声が桟橋から響いた。娘はポケットを押えてみて、窓からお叩頭《じぎ》をした。
 怠惰なエンジンの音が聞えて、機船は河心へ出た。河と云いながら、大幅な両岸は遠く水平線に退いて、照りつける陽の下に林影だけ一抹の金の塗粉のようになって見えた。そ
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