け眼のように涼しく開けて、葉はまだ閉じて眠っているポインシャナの叢《くさむら》を靴の底でいじらしそうに※[#「てへん+(「縻」の「糸」に代えて「手」)」、743−上−20]《さす》りながら、こう云った。
娘は、今朝も事務員に混っていろいろ手伝っていたが、何となくそわそわしていた。そして、話にばつを合せるように、私には嫌味に思える程、きらきらした作り笑いの声を挙げた。しかし、若い経営主が、こういうにつれ、他の若い男たちも悵然《ちょうぜん》とした様子をみて、娘は心から同情する気持ちを顔に現した。
「僕の慰めは酒と子供だな」と社長は云った。
彼は今朝もビールを飲んでいた。
「君にもまだ慰めなくちゃならない煩悩があるのかね」と若い経営主は云った。「そんなにチッテ族の酋長《しゅうちょう》のような南洋色になっても」
社長は、「ある――大いにある」と怒鳴ったが、誰も酔いの上の気焔《きえん》と思って相手にしない。社長は口を噤《つぐ》んで仕舞った。
逆巻く濤《なみ》のように、梢《こずえ》や枝葉を空に振り乱して荒れ狂っている原始林の中を整頓《せいとん》して、護謨《ゴム》の植林がある。青臭い厚ぼ
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